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02 可愛い子 どうやらこの一護、疲労した時に猫の姿になるらしい。 猫か人か。 どちらが本当かは分からないが、猫の姿であっても霊圧を感じた。 人型の時は、かなりの霊圧を有していたように思う。 小さい呻き声と共にまた。 耳が震えて煙が一つ。 12,3の少女。 先は驚いていたのと泣いていたのがあって気にならなかったが、一護が身に纏うものは何もない。 つまり裸だ。 思春期を迎えたばかりの。 小ぶりな胸と、若干丸みを帯び始めた身体。 橙のしっぽが後ろで揺れる。 これは拙いと。 浦原は慌てて自分の隊長羽織を脱ぐと少女に着せた。 逆効果だったか。 そんな感じも否めないが、裸よりマシだ。 「……ええ、と?」 浦原は目を白黒させた。 とりあえず服を着せたのは良い。 が、一護が正座する浦原の膝に乗り、抱きついてくるのは何事か。 「一護?」 ぎゅうぎゅうと力強く。 浦原の腹に回る手に力が込められている。 状況の飲み込めない浦原が、けれど殺気に気づいて襖に目を向けた。 「ほう…十二番隊の隊長は、私室で幼子を手篭めにするほど暇なのか」 「ご、誤解っス!」 仕事とやらを片づけて、まっすぐにこちらに寄ったのだろう。 仕事着のまま、夜一が仁王立ちしていた。 「あの子はどうしたのじゃ?」 まさかその幼子があの子猫と言うまいな? その通りです。 「目を覚ましたらこの姿になったんスよ。いやあ…流石のアタシも驚きました」 そう言って一護の頭を撫でる。 夜一が現れたことでいっそう、腕に力がこもった気がする。 「一護…と言ったな。そんな変態男は放って、儂の所に来ぬか?」 猫に対してするように、夜一は膝を付き手招きをする。 が、一護は浦原の胸に顔を押しつけたまま。 「何故おぬしが懐かれるのじゃ」 「もしかして刷込みって奴でしょうかねえ?」 生まれたばかりの子猫というわけではないけれど。 言動は酷く幼い。 「一護。夜一さんはアナタを助けてくれた人ですよ。悪い人じゃありません」 おそるおそる一護は振り返った。 琥珀に黒が映る。 「覚えておるか?」 頭を振った一護の傍に、夜一は寄った。 「おぬし…黒崎一族の者じゃな?」 一護は首を傾けて、だが縦に振った。 そうか、と夜一が神妙そうに頷いた。 黒崎一族、は確か先祖に妖狐を持つ術師の一族ではなかったか。 生まれながらに獣に変化出来る能力を持つという。 「記憶を失うたか」 「どういうことです?」 今は話せぬ、と夜一は告げる。 言えないのか。 聞かせたくないのか。 浦原はまだ幼い子供を見下ろした。 「しかしの…この格好はどうにかならぬのか」 夜一は困ったように一護を見た。 隊長羽織は浦原が纏えば腰丈のものであるが。 小さな一護では丈が長すぎるのだ。 「仕方ない。着るものを持ってくる」 「え、夜一さん連れて帰らないんスか?」 まるで猫のように一護は浦原にすり寄って。 夜一はふんと鼻を鳴らした。 「おぬしに懐いておるではないか。拾うたのは儂なのに…やはりおぬしに預けるべきではなかったの」 つまり、面倒を見ろ。 浦原は一護を見下ろした。 琥珀と目が合う。 「アタシと、一緒に住みますか?」 こくり、と。 小さく頭が揺れた。 |
2006/10/07 |