蜂蜜色の子猫


03 癒えない


 夜一にいくつか服を貰い。
 それに着替えさせて。
 もらい物だけでは何なので、近いうちに買いに連れて行ってあげようと思う。

 眠る一護はまた、猫の姿に戻っている。
 一護は猫ではないが、まだ力が安定していないらしい。
 人型になったときの耳としっぽも、おそらくそのせいだ。

「現世でメノスが出ての。王族特務と共に儂ら刑軍も駆り出された」

 それは昨日の出来事。
 今日は後始末に追われていて、それに嫌気がさして流魂街に逃亡。
 そして治安の良い街にいた、瀕死の猫を拾った。

「メノスの狙いは異能の一族」
「人間ながらにして高い霊圧を持って生まれる黒崎一族、だったと?」

 夜一たち刑軍が駆けつけた頃には、王族特務が殆どの虚を駆逐していた。
 辺りには血の臭いが立ちこめ。
 生きている人は誰もいなかった。

「おそらく一護もその時に襲われたのだろう。他のものは……すでに喰われた後だと聞いた」

 人間の魂魄は死神によって流魂街へ送られるが獣の魂魄は独りでに流魂街へ行く。
 獣の姿のまま息絶えた一護は、世界のシステムに獣と認識された。

 大けがを負った獣のまま、流魂街にやってきた一護は夜一に拾われた。
 そういうことらしい。

「獣の姿でこちらに来たせいか、それとも防衛本能か。記憶を失うたのは幸せなのか、哀れなのか」

 背中の大きな傷は、人型をとっても消えない。
 おそらく一生、この傷は癒えても消えない。
 始めに泣いていたのは、癒えない心の。

「真面目に仕事など、せねば良かったわ」

 懐かれるのは自分のはずだったのに、と夜一は告げる。
 身寄りのないこの子猫を引き取るのも彼女だったはずだ。

「一護に妙な真似をしたら殺す」

 夜一の言葉に肩をすくめる。
 こんな子供に何をすると。

 浦原は思ったが、先のことを思い出した。
 悟られたら殺される。
 そう考え、必死で取り繕った笑みを浮かべた。



2006/10/07