蜂蜜色の子猫


05 身近に敵有り


 一護は着物に慣れない、ようだ。
 襦袢は何とか着ることを覚えたようだが、小袖はそうもいかない。

「襦袢、着ましたか?」

 衝立の向こうに話しかける。
 おお、と男らしい声が聞こえて。
 浦原は、衝立の向こうに足を進めた。

 襦袢姿の一護は、ちょこんと正座している。
 こんな姿で、『不束者ですが、よろしくお願いいたします』なんて言われた日には。

 う、と鼻を押さえる。
 幼妻、良いかも知れない。

 一護が不審そうに見上げてきた。

「テメエ…何、変な想像してんだ!」

 ごふっ、と腹に入ってきたのはぬいぐるみ。
 どうやらこのぬいぐるみには見抜かれたらしい。
 それよりも。

「何でアナタが居るんですか!」

 アタシも拝んだこともない玉の肌を!
 なんて言いつつ、始めてその姿で会ったときは全裸だったわけだけれども。

 足で踏みつぶした。
 ギャー、と痛覚を作っていないはずのコンは叫んだ。

「風邪引いちゃいけませんから」

 小袖に、腕を通させて。
 しっぽは、やはり消しているらしい。
 苦しくないよう、けれど着崩れ無いように着付けをする。
 後は兵児帯を締めるだけ。

「さあ、出かけましょうか」

 しっかりと帯を結んで。
 浦原は一護の手を取った。

「コンは?」

 一護はコンを気にしてちらちらと振り返り。
 その頭を優しく正面に向けてやる。

「あのエロぬいぐるみは放っておいて良いですよ」
「えろって何?」
「気にしないで下さい」

 危うく変な言葉を覚えさせるところだった。
 いや、自分好みに紫の上計画を実行しても良いのだが。
 見た目こそ12,3だがまだ精神は幼い一護に、そんな言葉の意味を教えてしまえば。
 夜一に殺されることは間違いないだろう。

「良いですか。あのぬいぐるみに変なことされそうになったら、真っ先にアタシに言うんですよ」

 分解してやる、なんて微塵にも出さずに浦原は告げた。
 ぬいぐるみは倒れたまま、だらだらと冷や汗を流している。

「変なことって?」

 ああ、子供の好奇心ってのは恐ろしい。
 浦原は内心頭を抱えた。

「キス、とか」

 ほんとうはごにょごにょとか。
 だが一護の唇を奪ってみろ、綿を出してやるだけでは済まさない。

「? 喜助だってするだろ」

 おやすみのちゅー、とか、行ってきますのちゅーとか。
 何かと理由を付けて浦原は一護の唇を奪っている。
 奪っている、なんて言葉が悪い。
 愛情を持って育てられた一護だから、こちらも愛情を持って育てているだけの話。

「アタシは良いんです。でも他の人に許しちゃ駄目ですからね」
「夜一さんも?」
「夜一さんも」

 夜一ならまあ構わないか。
 と思いながら、あの人にはそう言った対象に性別なんて問題を持ち込まない人だった!
 一護が誑かされてそっちの道に走ったらどうするつもりだ、と浦原は殴られかねない思考をして。
 やっぱり駄目だという答えをはじき出した。
 大体一護の唇は自分のもの。

「でも、俺ときすしないと死んじゃうんだって」

 どうすればいいんだ?と首をかしげてくる一護は愛らしい。
 しかし今聞き捨てならない言葉を聞いたような。
 つまりあれか。
 夜一も一護に何かと理由を付けてキスを迫っていると言うことか。

「……… …」

 頭の上がらない幼馴染みの顔を思い出して。
 浦原はがっくりと肩を落とした。



2006/10/11