蜂蜜色の子猫


06 感情パラメータ


 浦原が見下ろせば、耳がぴくぴくと揺れていた。
 一護の感情に連動しているらしい。
 今は楽しそうに。

 予め注文して仕立て上げしてもらっていた、紺地に牡丹が散った小袖と、唐織の菊花と桜が咲いた杏色の小袖を包んで貰っている。
 その合間に、下駄を物色中。
 動くものと光るものに興味がある様子だ。

「これが気に入ったんスか?」

 一護がじっと見つめる、金糸が織り込まれた鼻緒の下駄を、指さした。
 躊躇いがちに、一護の頭が一回縦に振られる。

「遠慮しなくて良いんですよ」

 じゃあ旦那さん、これも追加で。
 そう告げた浦原の顔を一護は見上げる。

「…なあ」

 耳が小さく震えて、そして垂れた。

「何で喜助は、俺に良くしてくれるんだ?」
「どうしてだと思います?」

 知らないと一護の頭が振られた。

「泣きじゃくっていた子猫が思いの外可愛くて。あんなに必死にしがみつかれたら、きっと誰でもくらっと来ますよ」

 一護の頬が紅潮する。
 きっとその時のことを思い出したのだ。
 泣いていた、その理由は思い出せなくとも。

「… 子猫って言うな」

 恥じらいを隠すために一護は俯く。
 耳は垂れていたが、けれど先とは違う様子で。

「だって一護はまだ子猫でしょ?」

 大人ではないし。
 猫となった夜一よりも幾分か小さい。
 言われていることが分かって、一護は違う意味で顔を赤くする。

「ッだから言うな、ってんだろ!」

 耳は先ほどが嘘のように立って。
 引っかかれそうになった手を掴む。
 轍は踏まない。

「まったく、いたずらっ子なんだから。これはしつけが大変だ」

 俺はペットじゃない、と一護が喚く。
 そんな一護を抱き上げた。

「分かってますよ。アタシの可愛い子ですもの」

 下駄が軽快な音を立てて床に落ちる。

「何があってもアタシが守ってあげますから」

 浦原は満足そうに笑う。
 一護の耳が揺れる。
 一度垂れて、そして上がった。



2006/10/11