![]() |
07 くるりくるり 一日の殆どを浦原は技術開発局で過ごす。 それは一護も同じ。 だが今日は珍しく彼は隊舎に居て、一護もそこにいた。 しかし、今浦原は不在で。 一護はコンと共に留守番だ。 「それで、俺はこう言ったわけよ」 有ること無いこと。 誇らしげに語るコンに、一護は頷いた。 物音がして。 一護の耳はまっすぐに立つ。 しっぽがあればきっと、それも同じだったはずだ。 「浦原くん、居るかな?」 聞き覚えのない声と共に。 やたら派手な格好をした長身の男が現れた。 「あれれ?」 一護の間に立つぬいぐるみと、一護自身に。 男は驚いて、けれどすぐに愉快そうに笑った。 「キミ、可愛いねえ」 一護はコンを抱き上げ、ぐえと声が上がるほど抱き締める。 「その耳と言い、子猫みたいだね」 けれどその言葉に。 一護は鋭い爪を煌めかせた。 「駄目ですよっ」 叫び声と共に、風が通り抜けて男の長い髪が揺れ。 男の顔に立てられるはずの爪は、浦原の手に握り込まれた。 「子供扱いされたからって、引っ掻くのは止めなさい」 不満そうに一護の顔が歪んだ。 実年齢に比べて酷く言動が幼い。 記憶を失ったことが影響しているのか。 コンを抱いた一護を抱き上げる。 「っ俺はガキじゃねえ!下ろせ!」 「そう言うところが子供なんです」 軽い力でお尻を叩く。 一護は浦原の頭にしがみついて、腹立たしそうに髪をかき乱す。 「潰れる!綿が出る!」 その一方、押し潰されたコンは喚いた。 「浦原くん…僕が居ること忘れてない?」 忘れていました、と悪びれずに。 浦原は振り向いて、男を見た。 「何の用っスか。京楽さん」 「君の所に可愛い子がいるって聞いてね、これは見ておかなくちゃと思ってさ」 噂通り可愛い子だね、と京楽は一護に手を伸ばす。 気づいた一護は身体を丸めて、浦原は少し距離を取る。 「見たなら気が済んだでしょ。さっさと仕事したらどうです。副官さんが困ってるでしょう」 「君に言われたくない台詞だなあ」 あからさまに逃げられて、京楽は苦笑する。 丸めた身体とは反対に、警戒心も露わな耳に。 ふと顔を上げた一護に、京楽は微笑んだ。 それから、髪を束ねた、回る風車が一護の視線を独り占め。 「これが気になるのかい?」 それに気づき、京楽は簪を抜いて、一護に手渡した。 浦原は不愉快そうだ。 「一護。ぺっ、なさい。そんなもの」 「そんなもの、って…結構値が張ったんだよ、それ」 そう言う意味で言ったわけではないし。 京楽もそれを理解している。 剣呑な二人に、一護は気づかず。 手渡された風車を興味深そうに見やる。 「良かったらあげるよ。一護ちゃん」 戸惑った様子で、一護は簪と浦原を交互に見た。 貰っておきなさい、と浦原は言った。 「…有難うございます」 浦原に抱っこされたまま、頭を下げる。 それを見て目尻を下げた京楽に、浦原は眉を寄せた。 「お礼はそうだね、一護ちゃんのキスが良いなあ」 「やっぱり捨てなさい」 再び押し問答を繰り広げる浦原と京楽に。 どっちなんだと苛立った一護は、浦原の頭に簪を刺した。 |
2006/10/22 |