蜂蜜色の子猫


15 囀る小鳥


 一護は小さくて可愛い。
 猫の姿の時もそうだが、人間の姿の時がとりわけ。
 はっきりいって、いくら忙しかったと言えど、浦原のところに預けたのは失敗したと思っている。

「くすぐったいっ」

 猫がじゃれ合うように。
 夜一も一護も、今は人間の姿だ。
 けれど夜一は掻いたあぐらの上に一護の身体を乗せて、一護の髪をくすぐる。

「愛い奴じゃのう」

 一護の本能は猫に近い。
 妖狐を先祖に持つせいかもしれない。
 着物から覗くしっぽが、ぐるぐると円を描く。

「んー」

 桃色の唇にそれを寄せる。
 気持ちよさそうに耳が伏せられる。
 それを見て愛おしいと思うのは、夜一の持つ母性本能がくすぐられているのか。

「儂が男ならのう」

 一護ほどの可愛い猫を放っては置かない。
 そう考えて、"男"である一護の保護者を思い出した。
 あの男…一護の信頼を一身に受けていることに託けて不埒な真似を…。
 そんなことを考えていた矢先。

「なあなあ。ベロちゅーしないの?」
「はああ?」

 一護の発言に、夜一は思わず声を裏返らせた。
 ベロちゅーとは、あのベロちゅーだろうか。

「喜助が言ってたんだけどさ。ちゅーは夜一さんと喜助にしか、するなって」

 安売りはいけないらしい、と一護は続ける。
 まあ、浦原にしては真意は欲だらけであろうとも、真っ当な忠告だ。

「それと、ベロちゅーの何が関係あるのじゃ?」
「喜助は俺にベロちゅーすんの。でも夜一さんはしないだろ?」

 ベロちゅーは、喜助としか駄目なのか?
 一護は不思議そうな顔をする。

 ベロちゅー。

「して、ベロちゅーとは?」

 一護は拍子抜けした表情で。
 顔を赤くして、次に苦悶の表情を浮かべる。

「その…… ええっと」

 恥じらいながら、一護は夜一に口付ける。
 そして拙いながらもベロちゅーを再現して見せた。

 間違いなく、あのベロちゅーだ。

 しかしその最中の一護の顔は非常に可愛らしかった。
 男でないのが惜しいぐらいだ。
 これは…… 確実に仕込んでいる。
 そう結論付けたら、行動に移す。
 有言実行は勿論、不言実行も夜一のモットー。

 一護を脇に抱えた夜一が般若の形相で、技術開発局の鋼鉄の扉をぶち破るのは、数十秒後のことである。



2007/03/31