![]() |
02 ほの暗く、何処か鮮やかな闇色になる 一護は身体を見た。 透けていた。 胸に鎖は、ない。 「え…?」 見下ろした先には、自分の身体。 不透明の。 目を瞑って、寝台に蹲っていた。 「…どういう…」 幽体離脱というやつか。 いや、一護は死神になる術を会得し、肉体から離れる方法を知っている。 一護は狼狽えていた。 精神世界で、それは直接反映された。 「グッモーニンッ一護!!」 朝から近所迷惑な、煩わしい声。 それは、母親が死ぬ前から変わらない。死してなおも、変わらないこと。 「……親父……?」 透明な一護は、父を見た。 一心は、透明な一護を見て、そして。 寝台で寝そべる、一護を見た。 彼は狼狽えなど、しなかった。 寝台の方の一護に駆け寄り、手を取る。 「おい、白いの。お前に確認したいことがある」 透明な一護の、そのココロを見やり。 一護が意図することなく、現れた白い彼は、何故かいつものような笑みをたたえてはいなかった。 「…アンタが考えていることで、正解だ」 心臓をかきむしるように抑えた、一護の左手の首。 有るはずの鼓動は、ない。 「この肉体は、死んでいる」 え、と。 一護の小さな小さな呟きが、静かな静かな部屋に木霊した。 「…肉体が死んだ、って……俺、…死んだってコトか?」 一心は手にした手首を引き寄せ。 そのまま倒れこんできた一護を、いっそ潰れるのではないかと言うほど、抱き締めた。 「……大丈夫だ。あちらさんに、お前を渡したり、しない」 あちらとは。あの世の世界。 父が遙か昔に捨てた地、その報いか、母は行くことも出来なかった、流魂街。 「摂理に逆らうのか?」 「お前がそれを言うのか?」 一心は笑う。 白い男も、青い舌を見せた。 「この身体どうすんだよ。それと、新しい器だって必要だ」 「それなら…アテはある。あんまりアイツに借りは作りたくねえが、一護のためだ」 一護は頭上で交わされる会話に、ついて行けずに。 ただ、この家を。 このぬくもりを手放さなくて良いのだと言うことは、朧気ながらに悟った。 「…俺は、ここに居て…いいの?」 一護は伸ばされた、白い手を取った。 しっかりと握りしめられる。 軋むほど、大きな体に抱き締められる。 居場所はここなのだと。 * 浦原は、眉を上げた。 この男に会うのは何十年ぶりのことだろうか。 親友と言うべきか。 悪友と言うべきか。 傍らには、風の便りで聞いた、彼の子供の姿もある。 けれどそれが二つ。 一つは一心の腕に抱えられていて(上には布が掛かっていたが、その布は霊力がないものには包んだものを不可視にする能力を持つ)。 そして、もう片方は、かつて浦原もこの男も纏っていた、この義骸という器から離れれば身に纏うことになる、死神の黒衣そのものを着ている。 腰には刀。 「お前さんの腕を見込んで、頼みたいことがある」 「それは魂の抜けたソレと、アナタの娘さんと、関係がないなんて、言わないっスよねえ?」 大ありだ。 と、男は神妙な顔持ちで告げた。 「一護に義骸を……それとこれは、……、原子レベルに、分解して欲しい」 浦原は瞠目した。 よくもまあ、元の持ち主の前で、そのようなことが言えるなど、と。 一心の娘も納得しているのだろう。 けれど大粒の琥珀が揺れたことを、浦原は見逃さなかった。 「義骸に、余計な細工はいらん。ただ、少し霊圧を抑えるくらいはして欲しいけどな」 「それが一番難しいんですけどねえ」 元々義骸は霊力を回復するための器。 追放処分となる原因となった霊子を分解するそれは、完全に死神の魂魄を人間に変えてしまう。 いつも通りの生活を送るためにはそれでも構わない、はずだ。 何か理由があるのか。 何故か死覇装を纏った、その少女を浦原はじいっと凝視する。 「それじゃ、寸法を測りましょ。……ええと、一護さん・でしたっけ?」 元科学者としての血が騒ぐのか。 研究材料として、面白い存在だ。 いい人を装って近づいて、検査と偽って色々と実験してみたい。 「アタシは浦原喜助って言います。お父さんと一緒。現世に住んでる元死神っスよ」 「……黒崎、一護です」 むす、っとした顔で。 一護と名乗った少女は、浦原が伸ばした手を取ることもなく、頭を下げた。 そのことは浦原の矜持を少し傷つけたが。 手懐けさせるのも、面白い。 しかしその不埒な視線と思考に気付いたのか。 一護が浦原商店の敷居をくぐった直後。 浦原は、突然耳を引っ張られ。 「絶対手ぇ出すなよ。手ぇ出したら、ブッ殺す!!」 一心に釘を刺される形になった。 手を出しでもすれば、斬魄刀で刺されるかもしれないな。 浦原はそう呟き、くつりと笑った。 |
2007/03/14 |