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Betttuch シーツから足が生えて、それがこちらに向かって歩いている。 これが暗い廊下であれば驚いたに違いない。 しかし明るくとも奇妙な光景に、浦原は眉をひそめた。 近づいてきたと思った瞬間、シーツは目の前に迫ってきた。 「それ、客間に運んで下さい」 シーツのお化け、いやいや、いつも威厳溢れる総執事は、少しずれたモノクルを直してそう言った。 シーツは今、浦原の手の中にある。 「ベッドメイキング、頼みます」 意外に重いのに、総執事は息を荒げることも無ければ疲れている様子もない。 そういえば、旦那様のご友人が一家族、泊まりに来るんだったなあと朧気な記憶を引っ張り出した。 話し終えると総執事はリネン室へ戻っていく。 その後ろ姿を見て、可愛いなあ、なんて思い。 浦原も総執事の言いつけに従って、客間に足を運んだ。 まずはシーツを引いて。 布団にカバーを掛ける。 ピローケースに枕を収めれば終わり。 他のいくつかのベッドも無事真っ白な、洗い立てのシーツに包まれる。 手慣れたものだ。 この屋敷で勤め始めてもう3年。 小さい頃からこの家に世話となり、そのまま奉公するようになった総執事にはまだまだ及ばぬけれど。 「ドア、開けてもらえませんか」 ドア越しに、くぐもった声。 きっと小さな身体はあのシーツに埋もれて、歩く以外の機能に不都合があるはずだ。 浦原はくすりと笑い、扉を開けてやった。 「どうぞ、総執事」 シーツの塊が、入室。 「こっちのベッドメイキング終わりました」 「有難う」 総執事はベッドにシーツを下ろす。 浦原が退室する直前に漏れた、はあ、という息は疲労を表していて。 あの細腕にはきっと骨の折れる仕事だっただろうと、浦原はこっそり思った。 |
2006/09/25 |