Den Traum hat gesehen Das Schaf


Katze


 リネン室に二人っきり。
 浦原は今朝告げられた自分の仕事を、さも忘れたように装って、総執事に近づいていた。

「……が済んだらあっちで……、それも終わったら……をお願いします」

 総執事は今日の浦原の予定を口頭で告げる。
 疑問を口にした。

「にゃん、って言わないんですか?」
「旦那様が居ないのに、言うわけ無いでしょう」

 ああ、やっぱり嫌なんだと思いつつ、裏を返せば旦那様の為ににゃんにゃん言っているわけで。
 何となく腹が立つ、いや何となくではなくて、とても腹立たしい。
 こっちは是非とも、総執事とにゃんにゃんしたいぐらいなのに!

「総執事」
「何ですか?早く仕事に…」

 まだ用か、と総執事は振り返る。
 浦原はにやにやと笑いそうになる顔を引き締めた。

「『ご奉仕するにゃん』って、言ってくれませんか?」
「はあ?」

 心底不快そうに。
 秀麗な眉が片方、つり上がる。

「でないと、仕事しませんから」

 けれど負けては居られない。
 こんな格好、もう二度と目に納められない。
 メイド服+猫耳なんて装備のせいで、今屋敷内の機能は一部停止してしまったのだから。

 はあ、と不愉快そうに総執事は息を吐く。
 それが吉と出るか凶と出るか。

「…… ゴホウシスルニャン」

 棒読みで、しかも無表情。
 だが、脳内映像に脳内アテレコしたものよりも良い。
 キュン死にしてしまいそうだ。
 だから浦原は衝動のまま、総執事を抱き締める。
 
 いつもはマオカラーのせいで隠れる首筋に、背を屈めて顔を埋める。
 甘ったるいものが好きで、だからこの子も甘い匂いがするのだろうか。
 舌先で軽く辿って、軽く歯を立てる。
 だってこんなにも美味しそうなのに、食べないわけにはいかない。

「一護さん…」

 抱き締めた身体が動き一つしないことに乗じて、抱き締める腕を片方、ゆっくり下に。
 どんな趣味してるの、と訴えたい、けれど良い趣味だと思うガーターベルトに手を添えて。
 普段は見せない魅惑的な太ももを撫でた。

「…っ…」

 ぴくり、と跳ねる。
 その身体を抱く力を一層強くする。

「…可愛い…」

 その時の浦原は、あまりの嬉しさに昇天しそうだった。
 しても構わない!とさえ思っていたのだ。

 だから気づかない。

「………」

 一護が未だかつて無いほどに、眉間に皺を寄せ、青筋を浮かべていたことなんて。
 首だけでは満足出来なくてピアス穴のない綺麗な耳を囓り、夢中になって舌先で貪っていた浦原には見えなかった。

 あれ、と思ったときには。
 どういう訳か、痛くならないようにそれでも強く抱き寄せていた一護の身体が離れていて。

「?!!」

 細足が、ブーツの細く尖ったヒールが、浦原にクリティカルヒット。
 エンジニアの世界で、クリティカルは、致命的。
 渾身の力を込めていただろうそれは、浦原に☆どころか花畑さえ見せた。

「〜〜ッ!!!」

 浦原はあまりの痛みに股間を押さえて蹲った。
 我ながらみっともない姿だと思うが、洒落にならない。
 むしろ使い物にならなくなったかも!困るのはアナタですよ一護さん!

「死ね」

 アタシは死にません!(そういえば、一人称は変わるが、その台詞が有名なドラマがあった)
 そう叫ぶことが出来たらどんなに良かったか。

 始めて聞いた、乱暴な、感情が籠もった声を耳にしながら、浦原は三途の川の向う側にいた。



2006/10/13