Den Traum hat gesehen Das Schaf


Rock


 あのとき、総執事にときめいてしまったことは認めよう。
 だがこれは恋愛感情ではない。
 いくら可愛らしくても、キスしたいと思っても、総執事は男。
 しかもあの人は、大の大人を伸してしまうような人物だ。

「……」

 あれ?見間違い?
 玄関先を掃除していた浦原の目に飛び込んできたもの。

「ただいま帰りました。旦那様」

 それは橙の髪の少女が、副執事の手によって開けられた黒塗りの車から出てくるところ。
 しかも旦那様のお出迎え付き。

 その少女はどうも、総執事にそっくりだ。
 だがその顔に浮かぶのは満面の笑み。
 双子の妹とか?

「お帰り、いちご」

 いちご。
 総執事の名前は、黒崎一護。
 まさかその双子の妹も同じ名前なのだろうか。
 紛らわしいことに漢字だけは違うのかもしれない。
 あ、もしかして、この前総執事の寝室で見たのはこの人だったのかも!

 浦原は、あの後、魔王様、いや総執事様へと変貌した総執事から説教された事実を意図的に消去した。

「また貴方ですか」

 先ほどの笑みなんて嘘のように。
 いつものように眉間に皺を寄せた総執事。

「掃除の手、止まっています。減給しますよ」

 いつもと違うと言えば、身を包むのが燕尾服ではなく、近くのお嬢様学校の制服であることくらい。
 お嬢様学校≒女子校。
 ∴総執事は女性という答えが導き出された。

「ア、アナタッ!女の子だったんですか?!」

 思わず声を荒げた。
 旦那様は、知らなかったのか、という視線を向けてくる。

「それが?」

 それは総執事も同様。
 だから何ですアンタに関係があることなのか、と言わんばかりだ。

「……何でもアリマセン」

 訂正。
 総執事はうら若き乙女。
 性別という壁は浦原の前に立ちはだかっていない(年齢という一生埋められない溝はあるが)

「一護。着替えてきなさい」

 旦那様の言葉に従い、総執事は屋敷に入り姿を消した。
 その前に、旦那様へ先ほどのような満面の笑みを浮かべて。

 何だかムカムカする。
 この感情は、多分きっと。

 またまた訂正。
 総執事にときめくどころか惚れてしまったらしい。
 あれは恋愛感情。
 紛うことなく総執事はストライクゾーンである。



2006/09/27