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Schlafanzug 旦那様の私室のある、屋敷の一角。 総執事はそこに住んでいたらしい。 新米の浦原がそこに入れないのは当たり前で、従って総執事の存在を知らなかったのも自然の流れ。 総執事室をノック。 総執事は、総執事になったことで、その部屋へ移動してきた。 反応はない。 もう一度ノック。 けれど結果は同じであった。 おそるおそるドアノブに手を掛けて、回す。 回った。 「不用心っスね」 重い扉が軋みを上げながら開いた。 失礼します〜とこそ泥の気分で、浦原は抜き足差し足忍び足。 部屋はカーテンが締め切った部屋は多少朝日が差し込んでくるとはいえ暗い。 「…朝っぱらから申し訳ないんスけど…」 机を越えて、ベッドのある方へ。 疚しい心はないが何となく足音を殺す。 おそらく総執事は睡眠中だ。 どうしよう、とても低血圧そうなイメージがある。 そしてきっと、魔王様なのだ。 ベッドの上、一つの膨らみに近寄った。 「……う、う…ん…」 まだ高校生だっけ。 この2日で発覚したその有能さと、あの重々しいくらいの威圧感に圧倒されて普段は意識しない。 寝顔は誰もを幼く見せるというけれど、これは随分と幼い。 「…髪を縛るものが見つからないので、何かめぼしいものを…」 ごろんと寝返り。 小さな身体にはベッドは大きいとはいえ、物理的な限界はある。 ドスン、と。 軽くとも所詮は人間の身。 けれど、まるでマネキンのように総執事はカーペットに落下した。 「……ん…」 目覚めない。 まだ寝るのか。 信じられない。 「あの…総執事…?」 それどころか微動だにしない。 少し大きめのパジャマに包まれた姿を見ていると、これがあの総執事だとは思えないくらい。 「起きて下さい。総執事ってばー」 「…う……」 総執事が起きないことには埒があかない。 浦原は床に転がる総執事を揺さぶった。 初めは軽く。 最後は若干乱暴に。 魔王様になっても構わないから、起きてくれ! 「な、に…?」 うっすらと琥珀を覗かせて、浦原を見上げる。 良かった、魔王様ではないらしい。 「…………」 焦点の定まらない目は、浦原の姿を捕らえない。 けれど彼の心はがっちり掴んだようだ。 「……可愛い、かも……」 いやいや、相手は男だ。 そんな趣味はない。 浦原は女が好きだ。それも巨乳で年上の美人が大好物と言っても良い。 こんな年下の貧相な子供(しかも女という前提条件を満たしていない)など守備範囲ではない、ファールボールも甚だしい。 浦原が葛藤している間に、総執事は再び眠りの縁に落ちる。 「あの…」 「……も、…お…」 ちょっと寝たい、と続くはずの言葉は、何となく、やらしい。 舌足らずだし、寝ているせいで乾燥した唇は薄く開かれている。 まるで強請られているようだ。 浦原は唇を近づけた。 触れ合うまであと少し。 オチは見えていたのだ。 これもおきまりだ。 ジリリリリリリ。 それが目覚まし時計の音とは思わなかったけれど!! |
2006/09/27 |