Den Traum hat gesehen Das Schaf


Stark


 世の中の人は大まかに分けて、二つに分類することが出来る。
 馬鹿か、馬鹿ではないか。
 それはもちろん、知能指数のことを言うわけでも能力のことを言うわけでもない。

「生意気なんだよっ」

 弱い者が与して、圧倒的な強者へ向かうこと。
 通常、それを身の程知らず、という。

 総執事は、身の程知らずの馬鹿共に囲まれていた。

「ちょうど良いです。このたび旦那様に言われて、大がかりなリストラを行うつもりだったんですよ」

 つまり、此処にいる彼らは皆リスとトラではなく、…リストラクチュアリングに遭うというわけだ。
 職務態度がすこぶる悪い。
 無断欠勤は当たり前、のくせして給料は当たり前のように受け取る。
 証拠はあるが、決定打が欲しい、らしい。
 以前のように。

「ッアンタが有能なのは認めるけどなあ。女のガキに命令されたくねえの」

 就任当初、総執事はそう言って絡んできた一人の執事を文字通り伸した。
 それを忘れているのか。
 それとも、今度は大勢だからと高をくくっているのか。

 普通の背丈の四人の男達に囲まれて。
 小柄な総執事の姿は見えない。

「大体、旦那様に身体で取り入ったんじゃねえの?」

 幼い頃からお世話になってたんだろ、そっちの意味でも。
 男の一人が、総執事の顎を取った。

「こっちの具合はどうなんだ?」

 下品な笑い声。
 男四人と、総執事が一人。
 どちらに分があるか。

「可愛い顔に傷付けるのは可哀想だけど、よっ」

 それはもちろん総執事に決まっている。

 殴りかかってきた男の手を掴んで、えいや、と背負い投げ。
 逆上して掴みかかる男には、みぞおち一発。
 どちらも正当防衛だ。

「とんだじゃじゃ馬だな」

 火花を散らして。
 残った男の内、一人が持つのはスタンガンだ。

 流石の総執事も、一歩下がって。

「まあ、乗りこなし甲斐があるってことか?」

 そこで伸びている二人に比べ、多少は理性的なのかそうでもないのか。
 壁側に追いつめて、電源の入ったスタンガンを押し当てる。
 力無く崩れ落ちる腕を掴んで、男は下世話な笑みを浮かべた。

「俺たちもお世話してくれよ」

 薄暗い倉庫には鍵が掛かって、密室状態、外側からは開けられない。
 浦原が偶然通りかかって、壁の薄いそこでのやり取りに気づいたのは幸運としか言いようがない。

「っ何だ?!」

 鍵の掛かった倉庫に、浦原は体当たり。
 立て付けが古いせいか、意外と容易く鍵が外れた。

「一護さ…!!?」

 服を乱されて。
 上はカッターシャツ一枚の総執事のおみ足が、男の顔面にめり込んだ。
 もう一発。
 流血沙汰には一歩手前。

 携帯電話を片手に、そこら辺に落ちているジャケットを羽織る。

「ああ、副執事。申し訳ないんですが縄を少々。四人を捕縛願います」

 捕縛するも何も、四人とも意識がない訳であるが。
 まるで何も無かったかのように、総執事は倉庫から出て行こうとする。

 すれ違い間際。

「副執事が来るまで見張り頼みます。それから壊した倉庫の鍵を修理しておくように」
「……… はい」

 通常ならば王子様役をかっさらえる予定だった浦原にそう告げた。



2006/10/07