Den Traum hat gesehen Das Schaf


Zimmermaedchen


 総執事は女性であるが、その身を包むのは燕尾服。
 白い手袋をして、それからモノクル。
 総執事のイメージを表現した、何とも男性らしい形である。

「え?」

 が、今日の総執事はどうだろうか。
 濃紺のワンピースにフリル付きの白エプロン。もちろんミニ丈。
 頭にはカチューシャ、そしてニーハイソックス+パンプス。
 絶対領域というポイントも押さえている。

「そんなところで何しているんです?」

 すれ違う瞬間、その前から動きを停止していた浦原に、総執事は顔を上げた。
 身長差もあって、いつもモノクルで隠れる大きな瞳がこちらを。
 ああ、これが流行の萌えって奴か、なんて。
 いや、もとより総執事には萌えている。

「え、ちょっと休憩を、と思いまして」

 ふうん?と懐疑的な目つき。
 ほどよく開いた襟元からは、いつもは厚い燕尾服に隠された胸元が覗く。
 貧乳かと思いきや(是非自分が大きくしたいと思っていた)、着やせタイプのようだ。意外にある。Cくらい?

「何してるんですか」

 同じような質問を、今度は違う意味で。
 不愉快そうな目線を頂いた。

「…、いや、ちょっと中が気になりまして…出来心です」

 短いスカートから覗ける白いそれが気になったのだ。
 見せパンって奴か(後日同僚に尋ねてみると、あれはドロワーズと言うらしい)。そう思って、ちらっと。
 浦原はめくっていたスカートから手を離した。

 キャー!とか、何するんですか!とか。
 顔を赤らめて言ってくれれば、胸キュンものなのに、総執事は声を上げるどころか表情すら変えない。
 それどころか、浦原に興味を抱かない様子で、そのまま過ぎ去ろうとしていた。

「あの!一護さん!何でその格好…」

 思わず声を掛けた。
 振り向きざま、ドレープの効いた短いスカートが揺れる。
 ドロワーズのせいで、チラリズムというものが感じられない。

「総執事」
「は、はい。総執事…それで…」

 間髪入れず訂正された。
 一回り年が離れていたって上司と部下だ。体裁というものがある、のだろう。

「この格好は――…」

 チリンと。
 この家出最も重い扉に付けられた鈴の音。

 総執事は言葉を切って、踵を返して、その先にある玄関へ寄った。
 旦那様のお帰りだ。
 その場にいた執事達も集結、浦原もそれに習って、一護の後ろに付いた。

「お帰りなさいませ。御主人様」

 大ブームを引き起こしている(らしい)メイド喫茶の常套句。
 少なくとも昨日まで『旦那様』呼びをしていたはずの総執事は、姿勢正しく一礼をした。

「一護。良く似合ってるぞ。見立てた甲斐があったな」

 旦那様の仕業!

「そうそう。巷ではこういうものも付けるらしい」

 はい、と。
 旦那様が手渡したのは、黒いレースのガーターベルトと茶色のロングブーツ。
 それから、あれは猫耳?

「明日はこれで。語尾は『にゃん』で頼む」

 やっぱり旦那様は助平だ。それもムッツリ。
 興味なんてありませんという涼しい顔をしながら、何て不埒な!
 改めて浦原は認識した。

 しかし。
 想像するだけで、何とも言えない。
 萌えだ、萌え。

「畏まりました。ご主人様」

 畏まっちゃうのか。

 こっそり合いの手を入れて、隣にいる男が前屈みになっていることに気づいた。
 あとでリンチしてやる。
 心の中でそう思いながら、浦原は一護の姿を目に焼き付けていた。



2006/10/13